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ぼくを探しに+大人のための残酷童話/倉橋由美子 [ 本の部屋]

 先日亡くなった作家、倉橋由美子には、絵本の翻訳者としての側面もある。
シェル・シルヴァスタイン(1932〜1999)原作の「ぼくを探しに」「 ビッグ・オーとの出会いー続ぼくを探しに」「歩道の終るところ」「人間になりかけたライオン」「屋根裏の明かり」「天に落ちる」を翻訳している。

 倉橋由美子によると、シェル・シルヴァスタインは、「シカゴで生まれ中西部の小さな町で育ったアメリカ人で、写真を見た限りでは髭面のプロレスラー風でもあり行者または聖者ふうでもある。...シルヴァスタインもその成功した芸術家の一人で、「プレイボーイ」誌の漫画で名を知られているのを始め、...」とある。

 「ぼくを探しに」は、パックマンのようなシンプルな形をした「ぼく」が、足りない自分のかけらを探しに旅に出て、いろいろな出会いをしながら、出会えたと思うたびに、そうでもなくて、旅を続けていくお話である。いわゆる「お話」のように、「ここでめでたしめでたし」ということはない。だからといって、悲しいわけでもない。そういう意味では、とても現実に即したお話である。

 私は、この絵本を読んだ時、「大人のための残酷童話」の作者が訳しているとは思いもよらなかった。...というのは逆で、「大人のための残酷童話」をよんだ時、「ぼくを探しに」の翻訳者だとは思いもよらなかった。
「大人のための残酷童話」の作者と「ぼくを探しに」の翻訳者が結びついていなかったのだ。それは、その後、彼女の他の小説や翻訳を読み続けてった後でもそうであった。つい最近、彼女が亡くなって、紙面で紹介されて初めて気づいた。だからといって、小説と翻訳の間に、何の関係も感じないのか...というと、そうでもなくて、現実的な判断が展開されていくところなど、言われてみれば...である。

 倉橋由美子の小説は、いわゆる「本歌取り」があって、オリジナルのものに対して、その物語性を現実性に置き換えるようなことがされる。しかし、元々オリジナルがフィクションなのだから、それを現実性に置き換えたところで、ノンフィクションになる訳ではなく、「フィクションのフィクション」という、なんとも言いようのない世界が出てきて、読んでいる方は倉橋由美子の世界で泳がされていく。「本歌」の幅も広く、童話もあれば、和歌や能もあり、読む側の教養を試されている。そして、それを語る倉橋由美子の文章は、冷静で現実的で...小説というより、やはり...物語っている。

 もうすぐ、倉橋由美子の訳による「新訳 星の王子さま」が出版されると言う。楽しみにしている。



■倉橋由美子 略歴
1935年10月10日高知県生まれ。
日本女子衛生短期大学別科卒業後、明治大学文学部フランス文学科に入学、卒業論文ではサルトルの『存在と無』をとりあげる。
明治大学大学院文学研究科中退。
明治大学在学中の1960年、「パルタイ」で明治大学学長賞を受賞。同作が芥川賞の候補となる。
1961年短編集『パルタイ』で女流文学賞受賞。長編『暗い旅』が外国文学の「模倣」論争となる。
1963年田村俊子賞受賞。
1966年、アイオワ州立大学大学院Creative Writingコースに入学。
1971年からしばらく小説の執筆から遠ざかる。
1980年創作を再開。
2005年6月10日、拡張型心筋症により逝去。享年69歳。


■倉橋由美子の絵本の翻訳

ぼくを探しに

ぼくを探しに

  • 作者: シェル・シルヴァスタイン, 倉橋 由美子, Shel Silverstein
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1979/04
  • メディア: 単行本


ビッグ・オーとの出会い—続ぼくを探しに

ビッグ・オーとの出会い—続ぼくを探しに

  • 作者: 倉橋 由美子, Shel Silverstein, シェル・シルヴァスタイン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/07
  • メディア: 単行本


歩道の終るところ

歩道の終るところ

  • 作者: Shel Silverstein, シェル・シルヴァスタイン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1979/01
  • メディア: 単行本


人間になりかけたライオン

人間になりかけたライオン

  • 作者: シェル シルヴァスタイン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1997/11
  • メディア: 単行本


屋根裏の明かり

屋根裏の明かり

  • 作者: 倉橋 由美子, Shel Silverstein, シェル・シルヴァスタイン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1984/01
  • メディア: 単行本


レオンのぼうし

レオンのぼうし

  • 作者: ピエール プラット
  • 出版社/メーカー: JICC出版局
  • 発売日: 1994/05
  • メディア: 大型本


サンタクロースがやってきた

サンタクロースがやってきた

  • 作者: グランマモーゼズ, クレメント・クラーク ムーア
  • 出版社/メーカー: JICC出版局
  • 発売日: 1992/11
  • メディア: 大型本


新訳 星の王子さま

新訳 星の王子さま

  • 作者: アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2005/06/27
  • メディア: 単行本

■倉橋由美子の小説

大人のための残酷童話

大人のための残酷童話

  • 作者: 倉橋 由美子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1998/07
  • メディア: 文庫


パルタイ

パルタイ

  • 作者: 倉橋 由美子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1978/01
  • メディア: 文庫


よもつひらさか往還

よもつひらさか往還

  • 作者: 倉橋 由美子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/03
  • メディア: 単行本


スミヤキストQの冒険

スミヤキストQの冒険

  • 作者: 倉橋 由美子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/02
  • メディア: 文庫


聖少女

聖少女

  • 作者: 倉橋 由美子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/09
  • メディア: 文庫


アマノン国往還記

アマノン国往還記

  • 作者: 倉橋 由美子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1986/08
  • メディア: 単行本

#本の部屋
nice!(2)  コメント(3) 
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room7

シロタさん、nice!をありがとうございます。
by room7 (2008-04-21 22:24) 

シロタ

こんにちは。
すごい情報量のブログなのに、読みやすいですね。あちこち興味深くてうろうろしてます。
倉橋由美子が「ぼくを探しに」の訳者というのはびっくりですが納得です。なんとなく。
この方の小説を読んでいると「教養ってこういうことなんだー」と思わされます。
by シロタ (2008-04-23 08:52) 

room7

シロタさん、コメントありがとうございます。シロタさんのブログは切れ味よく楽しめます。また寄せてもらいます。倉橋由美子には驚かされることばかりです。
by room7 (2008-04-24 23:28) 

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