ハーメルンの笛吹き男/阿部謹也 [ 本の部屋]
ハーメルンの笛吹き男は、グリム童話にも採集されている、中世の物語です。
大体において、グリムが採集している童話は、不条理で恐ろしげなものが多いのですが(子供向きのものとは到底思えない...)、この笛吹き男の話は、謎めいている点でも魅力的です。
誰もが子供の頃読んだ物語だと思いますが...ハーメルンというドイツの町で、笛の力によって鼠を退治した笛吹き男に、約束の報酬を支払わなかった為、再び訪れた笛吹き男に子供達が連れさられてしまうというお話です。
これは、実際にあった出来事で、1284年に130人の子供が失踪した、という記録まで残っています。
古来、笛吹き男の謎を解明する為の研究はなされているみたいですが、「これぞ!」と言えるのは、やはり、阿部謹也の著作になるのではないでしょうか...(というか、ちゃんと読んだのはこれしかないのですが)。
阿部謹也(あべ きんや)は、1935年、東京生まれの歴史学者で、ドイツ中世史を専門としています。一橋大学名誉教授であり、国立大学協会会長も勤め、紫綬褒章も貰っています...そう、トップクラスの学者なのです...でありながら、この著作は論文のような難解なものではなく、とても読みやすいのです。彼には、読者(他者)に対する配慮、生活するものとしての視点が備わっているように思います。
彼は、この著作を、「笛吹き男とは誰なのか」とか「子供はどうなったのか」といった単なる謎解きにはしていません。もちろん、多くの研究資料によって、謎の話は進んでいきますが...実はその背景、中世が人々に課した時代の中で、人々が何を考え、どんな行動をとっていたのか(どんな行動をとらなければならなかったのか)...中世の人々の生き様をありありと見せてくれます。これは、人としての視点が備わった学者だからこそ、できることなのだと感じました。
9月4日、阿部謹也氏の訃報を聞くことになりました。
この本に出会えたことを感謝し、ご冥福をお祈りします。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/column/desk/20061104/20061104_001.shtml
#本の部屋
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