Paris(パリ)/セドリック・クラピッシュ [ 映画の部屋]
人は、環境が変わると、それまでとは少し違った人生に出会う可能性がある。自分の病を知った弟。弟の世話のために引っ越しをした姉。自分を抑圧してきた父親を失った歴史学の教授。元妻を事故で失った八百屋さん...象徴的な扱いとして、ナイジェリアからフランスへ密入国する男...など。
変化を受け入れることができず一人殻に閉じこもりもだえ苦しむ者。小さな出会いから押さえていた心を開放させる者。心の栓が外れ若い女性と夢の世界へ向かうもの。癒されぬ悲しみを抱えながらも自分の心を試してみる者。
ほんのささやかな環境の変化によって、大きく人生が変わる者もいれば、大きな環境の変化によっても、たいして人生が変わらない者もいる。変化に対して、心が開いているかどうか...変化を受け入れられるかどうかによって違ってくるのだろうか?
ささやかな変化であっても...その一つのはじまりは、周りの人への変化を促さずにはいない。弟が病気にならなければ、姉は引っ越すことはなかっただろうし、八百屋さんは姉に出会うことはなかった。
与えられる変化の影響は一つではなかった。パリで生活保護を受ける兄からの絵はがきがなければ...その兄の生活保護の手助けをするNPO職員がいなければ...ナイジェリアで一人の美しい女性に出会わなければ...そのどれが欠けても、男は密入国を決心することはなかったかもしれない。
もちろん、自らの変化によって周囲に与えた変化は、また違った形で自らの次の変化を促す。変化は連鎖し、完結することはない...それが人生? 変化は安定に向かおうとするのだが、安定という形で留まることなく、次への変化へと向かう。人間は、何万年もこうした変化の連鎖を続けているのだろう。だから歴史は完結しないし、その時代への理解の作法も変る(過去の歴史は現代の私たちが作っているし、現代の私たちの生活は過去に生きた人々によって作られている...だから歴史学者か? それではあまりにもできすぎだ)。
そんな出会いと変化の連鎖を象徴する場面が、この映画「Paris」のあちらこちらにちりばめられている。
ある時代のある場所のパリの様子を丁寧に切り取った映画。そして、これは完結しない物語でもある。
「Paris」は、実は、私たちの身の回りの物語でもあるのだ。「東京」でも「名古屋」でも...自分の住む町の名前をタイトルにすればよいのではなかろうか。この町でも、こうした物語は営まれている。
1分に満たない短い場面を素早く切り替え、様々な情景を描き、周辺環境を説明し....いつの間にか個々のストーリーに引込んでいく。
重い病気であることを知った病院の弟の場面から始め、その病気を治すため、生存確立30%(40%だった?)の手術に向かうタクシーの中の弟の場面で終える。
その中で何度か紹介されるステージで踊る彼の笑顔...この物語を支える唯一の「過去」(映画の最初と最後では、この映像に対する思いは全然異なるものになるだろう)。
監督のセドリック・クラピッシュ...は、映画のことを良く知っている監督さんだと思う。パリを描いた昔の映画へのオマージュも感じられたりして、セドリック・クラピッシュの懐の深さにただただ感心する。
◆「PARIS(パリ)」オフィシャルサイト
http://www.alcine-terran.com/paris/
◆映画の解説
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD13439/index.html
http://www.cinemacafe.net/movies/cgi/21815/
http://cinematoday.jp/movie/T0006773
セドリック・クラピッシュ(Cedric Klapisch/1961.9.4〜 )フランス出身の映画監督・脚本家。
ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。1985年にフランスに戻り、レオス・カラックス作品のスタッフなどを務めた。
1992年の「百貨店大百科」が初めての長編映画となり、セザール賞にノミネートされて注目される。1996年の「猫が行方不明」ではベルリン国際映画祭の映画批評家協会賞を受賞。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/セドリック・クラピッシュ)
◆セドリック・クラピッシュの作品を検索
#映画の部屋
変化を受け入れることができず一人殻に閉じこもりもだえ苦しむ者。小さな出会いから押さえていた心を開放させる者。心の栓が外れ若い女性と夢の世界へ向かうもの。癒されぬ悲しみを抱えながらも自分の心を試してみる者。
ほんのささやかな環境の変化によって、大きく人生が変わる者もいれば、大きな環境の変化によっても、たいして人生が変わらない者もいる。変化に対して、心が開いているかどうか...変化を受け入れられるかどうかによって違ってくるのだろうか?
ささやかな変化であっても...その一つのはじまりは、周りの人への変化を促さずにはいない。弟が病気にならなければ、姉は引っ越すことはなかっただろうし、八百屋さんは姉に出会うことはなかった。
与えられる変化の影響は一つではなかった。パリで生活保護を受ける兄からの絵はがきがなければ...その兄の生活保護の手助けをするNPO職員がいなければ...ナイジェリアで一人の美しい女性に出会わなければ...そのどれが欠けても、男は密入国を決心することはなかったかもしれない。
もちろん、自らの変化によって周囲に与えた変化は、また違った形で自らの次の変化を促す。変化は連鎖し、完結することはない...それが人生? 変化は安定に向かおうとするのだが、安定という形で留まることなく、次への変化へと向かう。人間は、何万年もこうした変化の連鎖を続けているのだろう。だから歴史は完結しないし、その時代への理解の作法も変る(過去の歴史は現代の私たちが作っているし、現代の私たちの生活は過去に生きた人々によって作られている...だから歴史学者か? それではあまりにもできすぎだ)。
そんな出会いと変化の連鎖を象徴する場面が、この映画「Paris」のあちらこちらにちりばめられている。
ある時代のある場所のパリの様子を丁寧に切り取った映画。そして、これは完結しない物語でもある。
「Paris」は、実は、私たちの身の回りの物語でもあるのだ。「東京」でも「名古屋」でも...自分の住む町の名前をタイトルにすればよいのではなかろうか。この町でも、こうした物語は営まれている。
1分に満たない短い場面を素早く切り替え、様々な情景を描き、周辺環境を説明し....いつの間にか個々のストーリーに引込んでいく。
重い病気であることを知った病院の弟の場面から始め、その病気を治すため、生存確立30%(40%だった?)の手術に向かうタクシーの中の弟の場面で終える。
その中で何度か紹介されるステージで踊る彼の笑顔...この物語を支える唯一の「過去」(映画の最初と最後では、この映像に対する思いは全然異なるものになるだろう)。
監督のセドリック・クラピッシュ...は、映画のことを良く知っている監督さんだと思う。パリを描いた昔の映画へのオマージュも感じられたりして、セドリック・クラピッシュの懐の深さにただただ感心する。
◆「PARIS(パリ)」オフィシャルサイト
http://www.alcine-terran.com/paris/
◆映画の解説
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD13439/index.html
http://www.cinemacafe.net/movies/cgi/21815/
http://cinematoday.jp/movie/T0006773
セドリック・クラピッシュ(Cedric Klapisch/1961.9.4〜 )フランス出身の映画監督・脚本家。
ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。1985年にフランスに戻り、レオス・カラックス作品のスタッフなどを務めた。
1992年の「百貨店大百科」が初めての長編映画となり、セザール賞にノミネートされて注目される。1996年の「猫が行方不明」ではベルリン国際映画祭の映画批評家協会賞を受賞。
監督作品
百貨店大百科 Riens du tout (1992)
青春シンドローム Le Péril jeune (1994)
猫が行方不明 Chacun cherche son chat (1996)
家族の気分 Un air de famille (1996)
パリの確率 Peut-être (1999)
スパニッシュ・アパートメント L'Auberge espagnole (2002)
スナッチ アウェイ Ni pour, ni contre (bien au contraire) (2003)
ロシアン・ドールズ Les Poupées russes, (2005)
(http://ja.wikipedia.org/wiki/セドリック・クラピッシュ)
ロシアン・ドールズ スパニッシュ・アパートメント2 [DVD]
- 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
- メディア: DVD
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#映画の部屋
私も同じ映画を観たのになぁ。
いいエントリをありがとうございます。
私の見方は浅かった。DVDが出たらもう一度観よう。
by ももこ (2009-01-12 22:42)
ももこさん、ありがとうございます。一つの映画でも見方はいろいろあると思います。監督も全然違う視点で作っていたでしょうし...でも、そうした意図とは関係なしに、勝手にいろいろ考えることは楽しかったりします。これは、そうした思いつきのメモ書きみたいなものです。
takagakiさん、nice! をありがとうございます。
by room7 (2009-01-13 05:59)
本当にタイトルは「東京」でも、「名古屋」でも、構わない感じで、とっても身近な事として感じられました。
母国語を話すビノシュも良かったですね。
by 江戸うっどスキー (2009-01-14 06:28)
江戸うっどスキーさん、ありがとうございます。江戸うっどスキーさんの「Paris」のエントリーを改めて読みました。「東京」でも...という感想の一致が嬉しいです。実際にセドリック・クラピッシュに会われているようで羨ましいです。江戸うっどスキーさんのエントリーを読むと、あの映画に相応しい人柄のように感じます。
by room7 (2009-01-14 20:45)