風土/和辻哲郎 [ 本の部屋]
「この書の目ざすところは人間存在の構造契機としての風土性を明らかにすることである。だからここでは自然環境がいかに人間生活を規定するかということが問題なのではない。」これは、和辻哲郎氏の「風土」の序言です。「ハイデガーが、時間軸を中心とした人間存在を解明しようとしたのに触発され、空間軸(だから風土)を中心に人間存在を解明しようとした」ともいっています。
この本を読んでいくと、「なぜユダヤ教やキリスト教、イスラム教では、神は一人しかいないのに、インドや日本では多数いるのか...」、「なぜ古代ギリシャの美意識は左右対称が基本なのに、日本では左右非対称のバランスが好まれるのか...」「ヨーロッパと日本の自然感の違いはどこからくるのか...」、こういった問題を、モンスーン的風土(日本も)、砂漠的風土、牧場的風土の比較によって、気持ちよく解き明かしていってくれます。
しかし、読み進むうちに、風土を基とする絶対的の因果関係に愕然としてきます。それが序にあった「だからここでは自然環境がいかに人間生活を規定するかということが問題なのではない。」という注意が必要なのでしょう。
もっとも、やはり基本的な情報の古さも感じるし、展開に強引な所も感じます。ここら辺のことは、オギュスタン・ベルクの『日本の風景・西欧の景観』や「NHK人間大学:日本の風土性』(1995年10〜12月放映)の副読本(これはわかりやすい))などを読むとよいです。
和辻 哲郎(わつじ てつろう、1889年3月1日 - 1960年12月26日)
1925年、京都帝国大学助教授。1927年からドイツ留学。1931年、京都帝国大学教授。1933年、東京帝国大学教授。1949年、退官。1950年、日本倫理学会会長。1955年、文化勲章受賞。哲学者、倫理学者、文化史家、日本思想史家。 著作に『古寺巡礼』『風土』など
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