隠居の日向ぼっこ/杉浦日向子 [ 本の部屋]
先日以来、杉浦日向子の本を楽しんでいる。
「隠居の日向ぼっこ」というのは、江戸の粋を今に伝えるエッセイとなっていて、春の風物(踏み台/浮世絵/すごろく/鍵/手拭...)、夏の風物(ふさようじ/軽石/耳掻き/蚊帳/扚子...)、秋の風物(黒髪、櫛、雑巾、湯屋、鏡、おひつ...)、冬の風物(座布団、貧乏徳利、ゆたんぽ、炬燵、箱枕、餅...)、と言った具合に、全部で52の風物を、縦横無尽の知識とともに紐解いていく。
例えば、「ゆたんぽ・・・湯湯婆と書く。江戸の庶民は猫や犬も抱いて代わりにした。」、「はこぜん・・・ちゃぶ台の普及は昭和から。それ以前はひとりずつの膳で食事をした。」、「鍵・・・江戸のころ、ほとんどの人は鍵と無縁の暮らしをしていた。」など、端的な言葉遣いで語られる口調の中に、「今、当たり前だと思っていることは、実は当たり前ではなくて、ほんのここ数年〜数十年の常識にすぎない。」ことを再認識させられる。
「もの」は、「こと」から生まれるのであって、「こと」が移り変わっていけば、それとともに、「もの」も扱いが変ったり、片隅に追いやられる存在なのだ。そういえば、「百物語」の物怪も同じような存在であった。そういった’はかない”ものに対する、杉浦日向子の眼差しは優しい。
また、この本の挿絵も杉浦日向子の絵が使われている。漫画家であったのだから、絵はうまいのが当たり前だが、時にはかわいく、時にはエロティックに、様々な表現は、見ているだけで楽しめる。表紙の絵も彼女の作で、この本の存在そのものが、杉浦日向子の分身のようだ。
初出は「朝日新聞」で、平成12年2月から平成13年1月まで連載され、彼女の死の2ヶ月後、2005年9月に本としてまとめられ発行された。
この本の最後の風物は「餅」で、その最後はこう締められている。
「不謹慎と言われそうだが、大往生を遂げた暁には、御焼香の替わりに、参列者に一杵ずつ願い、極楽へのはなむけに、皆で餅を味わう、めでたい葬儀もいいと思う。」
縁側で日向ぼっこしながら...休日の電車に揺られながら...のんびりと読みたい本である。
◆過去の杉浦日向子に関する記事
http://blog.so-net.ne.jp/room7/2006-11-05
http://blog.so-net.ne.jp/room7/2006-10-21
日向子さんのことを「江戸時代からタイムトリップしてきた女の子」と評した方がいたような?テレビで見かける彼女の話、おもしろかったですね。この本も、メモしておこう。
by ももこ (2006-12-17 00:59)
ももこさん、niceとコメントありがとうございます。
杉浦日向子さんは、本当に江戸から来た人ですね。
ふわ〜〜とした雰囲気と、鋭い視点を楽しんでいます。
by room7 (2006-12-17 10:32)